両方用意しておけば、どんな場面にも対応できる
任意後見契約書は、財産管理等の委任契約書と同時に作るのが理想的です。そうすれば、判断能力に問題がないうちは委任契約書で対応できるし、その後で判断能力に問題が出てきたときは、速やかに任意後見契約に移行できるからです。
もし、どちらか一つだけだと、本人を十分保護できない可能性があります。
- 財産管理等の委任契約しか結んでいない場合
将来、本人の判断能力が低下すると、法廷後見を利用することになりますが、手続きに数ヶ月から半年程度かかるので、その間本人を十分保護することが出来ません - 任意後見契約した結んでいない場合
本人の判断能力が低下してから任意後見契約をスタートさせるまで、手続きのために数ヶ月のブランクが空くので、その間本人の財産管理や療養看護が十分に図れない可能性があります。
この2つの契約を事前に結んでおくことで、委任契約から任意後見契約へスムーズに移行でき、本人の保護を十分図ることが出来るのです。
「移行型」の契約書を作る
このように、任意後見契約と財産管理等の委任契約を一緒に結ぶ方法を「移行型」といいます。公正証書を作成するときは、2つの契約書を1つの書類にまとめる形になります。
なお、この場合は将来、任意後見契約の効力が発生した時点で、委任契約は効力を失います。
委任契約及び任意後見契約公正証書(移行型)サンプル(出所:日本公証人連合会)
本公証人は、
委任者○○○○(以下
「甲」
という。
)及び受任者○○○○(以下
「乙」
の嘱託により、次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取してこの証書を作成する。
第1 委任契約
第1条(契約の趣旨)
甲は、乙に対し、平成○○年○月○日、甲の生活、療養看護及び財産の管理に関する事
務(以下「委任事務」という。)を委任し、乙はこれを受任する。
第2条(任意後見契約との関係)
1 前条の委任契約(以下「本委任契約」という。)締結後、甲が精神上の障害により事理を
弁識する能力が不十分な状況になり、乙が第2の任意後見契約による後見事務を行うことを
相当と認めたときは、乙は、家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の請求をする。
2 本委任契約は、第2の任意後見契約につき任意後見監督人が選任され、同契約が効力を
生じた時に終了する。
第3条(委任事務の範囲)
甲は、乙に対し、「別紙代理権目録(委任契約)」記載の委任事務(以下「本件委任事務」
という。)を委任し、その事務処理のための代理権を付与する。
第4条(証書等の引渡し等)
1 甲は、乙に対し、本件委任事務処理のために必要と認める範囲で、適宜の時期に、次の
証書等及びこれらに準ずるものを引き渡す。
①登記済権利証、②実印・銀行印、③印鑑登録カード・住民基本台帳カード、④預貯金通
帳、⑤各種キャッシュカード、⑥有価証券・その預り証、⑦年金関係書類、⑧土地・建物
賃貸借契約書等の重要な契約書類
2 乙は、前項の証書等の引渡しを受けたときは、甲に対し、預り証を交付してこれを保管
し、右証書等を本件委任事務処理のために使用することができる。
第5条(費用の負担)
乙が本件委任事務を処理するために必要な費用は、甲の負担とし、乙は、その管理する
甲の財産からこれを支出することができる。
第6条(報酬)
〔報酬額の定めがある場合〕
甲は、乙に対し、本件委任事務処理に対する報酬として毎月末日限り金○○円を支払う
ものとし、乙は、その管理する甲の財産からその支払を受けることができる。
〔無報酬の場合〕
乙の本件委任事務処理は、無報酬とする。
第7条(報告>
1 乙は、甲に対し、○か月ごとに、本件委任事務処理の状況につき報告書を提出して報告
する。
甲は、乙に対し、いつでも、本件委任事務処理状況につき報告を求めることができる。
第8条(契約の変更)
本委任契約に定める代理権の範囲を変更する契約は、公正証書によってするものとする。
第9条(契約の解除)
甲及び乙は、いつでも本委任契約を解除することができる。ただし、解除は公証人の認
証を受けた書面によってしなければならない。
第10条(契約の終了)
本委任契約は、第2条第2項に定める場合のほか、次の場合に終了する。
(1)甲又は乙が死亡し又は破産手続開始決定を受けたとき
(2)乙が後見開始の審判を受けたとき
第2 任意後見契約
第1条(契約の趣旨)
甲は乙に対し、平成○○年○月○日、任意後見契約に関する法律に基づき、精神上の障
害により事理を弁識する能力が不十分な状況における甲の生活、療養看護及び財産の管理
に関する事務(以下「後見事務Jという。)を委任し、乙はこれを受任する。
第2条(契約の発効)
1 前条の任意後見契約(以下「本任意後見契約」という。)は、任意後見監督人が選任され
た時からその効力を生ずる。
2 本任意後見契約締結後、甲が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況に
なり、乙が本任意後見契約による後見事務を行うことを相当と認めたときは、乙は、家庭
裁判所に対し任意後見監督人の選任の請求をする。
3 本任意後見契約の効力発生後における甲と乙との間の法律関係については、任意後見契
約に関する法律及び本契約に定めるもののほか、民法の規定に従う。
第3条(後見事務の範囲)
甲は、乙に対し、別紙「代理権目録(任意後見契約)」記載の後見事務(以下「本件後見事
務」という。)を委任し、その事務処理のための代理権を付与する。
第4条(身上配慮の責務)
乙は、本件後見事務を処理するに当たっては、甲の意思を尊重し、かつ、甲の身上に配
慮するものとし、その事務処理のため、適宜甲と面接し、ヘルパーその他日常生活緩助者
から甲の生活状況につき報告を求め、主治医その他医療関係者から甲の心身の状態につき
説明を受けることなどにより、甲の生活状況及び健康状態の把握に努めるものとする。
第5条(証書等の保管等)
1 乙は、甲から本件後見事務処理のために必要な次の証書等及びこれらに準ずるものの引
渡しを受けたときは、甲に対し、その明細及び保管方法を記載した預り証を交付する。
①登記済権利証、②実印・銀行印、③印鑑登録カード・住民基本台帳カード、④預貯金通
帳、⑤各種キャッシュカード、⑥有価証券・その預り証、⑦年金関係書類、③土地・建物
賃貸借契約書等の重要な契約書類
2 乙は、本任意後見契約の効力発生後甲以外の者が前項記載の証書等を占有所持している
ときは、
その者からこれらの証書等の引渡しを受けて、
自らこれを保管することができる。
3 乙は、本件後見事務を処理するために必要な範囲で前記の証書等を使用するほか、甲宛
の郵便物その他の通信を受領し、本件後見事務に関連すると思われるものを開封すること
ができる。
第6条(費用の負担)
乙が本件後見事務を処理するために必要な費用は、甲の負担とし、乙は、その管理する
甲の財産からこれを支出することができる。
第7条(報酬)
〔報酬額の定めがある場合〕
1 甲は、本任意後見契約の効力発生後、乙に対し、本件後見事務処理に対する報酬として
毎月末日限り金○○円を支払うものとし、乙は、その管理する甲の財産からその支払を受
けることができる。
2 前項の報酬額が次の事由により不相当となった場合には、甲及び乙は、任意後見監督人
と協議のうえ、これを変更することができる。
(1)甲の生活状況又は健康状態の変化
(2)経済情勢の変動
(3)その他現行報酬額を不相当とする特段の事情の発生
3 前項の場合において、
甲がその意思を表示することができない状況にあるときは、
任意後見監督人の書面による同意を得てこれを変更することができる。
4 第2項の変更契約は、公正証書によってしなければならない。
5 後見事務処理が、不動産の売却処分、訴訟行為、その他通常の財産管理事務の範囲を超
えた場合には、甲は乙に対し毎月の報酬とは別に報酬を支払う。この場合の報酬額は、甲
と乙が任意後見監督人と協議の上これを定める。甲がその意思を表示することができない
ときは、乙は任意後見監督人の書面による同意を得てこれを決定する。
〔無報酬の場合〕
1 乙の本件後見事務処理は、無報酬とする。
2 本件後見事務処理を無報酬とすることが、次の事由により不相当となったときは、甲及
び乙は、任意後見監督人と協議のうえ、報酬を定めることができる。
(1)甲の生活状況又は健康状態の変化
(2)経済情勢の変動
(3)その他本件後見事務処理を無報酬とすることを不相当とする特段の事情の発生
(報酬額の定めのある場合の3項に同じ)
(報酬額の定めのある場合の4項に同じ)
第8条(報告)
1 乙は、任意後見監督人に対し、3か月ごとに、本件後見事務に関する次の事項について
書面で報告する。
(1)乙の管理する甲の財産の管理状況
(2)甲を代理して取得した財産の内容、取得の時期・理由・相手方及び甲を代理して処分
した財産の内容、処分の時期・理由・相手方
(3)甲を代理して受領した金銭及び支払った金銭の状況
(4)甲の身上監護につき行った措置
(5)費用の支出及び支出した時期・理由・相手方
(6)報酬の定めがある場合の報酬の収受
2 乙は、任意後見監督入の請求があるときは、いつでも速やかにその求められた事項につ
き報告する。
第9条(契約の解除)
1 甲又は乙は、任意後見監督人が選任されるまでの間は、いつでも公証入の認証を受けた
書面によって、本契約を解除することができる。
2 甲又は乙は、任意後見監督人が選任された後は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁
判所の許可を得て、本契約を解除することができる。
第10条(契約の終了)
1 本任意後見契約は、次の場合に終了する。
(1)甲又は乙が死亡又は破産手続開始決定を受けたとき
(2)乙が後見開始の審判を受けたとき
(3)乙が任意後見人を解任されたとき
(4)甲が任意後見監督人選任後に法定後見(後見・保佐・補助)開始の審判を受けたとき
(5)本任意後見契約が解除されたとき
2 任意後見監督人が選任された後に前項各号の事由が生じた場合、甲又は乙は、速やかに
その旨を任意後見監督人に通知するものとする。
3 任意後見監督人が選任された後に第1項各号の亭由が生じた場合、甲又は乙は、速やか
に任意後見契約の終了の登記を申請しなければならない。
代理権目録(委任契約)サンプル
1 甲の有する一切の財産の管理、保存
2 下記金融機関、郵便局とのすぺての取引
(1)○○銀行○○支店
(2)○○信用金庫○○支店
(3)○○郵便局
(4)甲が取引をするその他の金融機関
3 家賃、地代、年金その他の社会保険給付等定期的な収入の受領、家賃・地代、公共料金
等定期的な支出を要する費用の支払並びにこれらに関する諸手続等一切の事項
4 生活に必要な送金及び物品の購入等に関する一切の事項
5 保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約に関する一切の
事項
6 登記の申請、供託の申請、住民票、戸籍謄抄本、登記事項証明書
7 医療契約、入院契約、介護契約、施設入所契約その他の福祉サービス利用契約等、甲の
身上監護に関する一切の契約の締結、変更、解除、費用の支払等一切の事項
8 要介護認定の申請及び認定に対する承認又は異議申立てに関する一切の事項
代理権目録(任意後見契約)サンプル
1 不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び処分に関する事項
2 金融機関、郵便局、証券会社及び保険会社とのすべての取引に関する事項
3 甲の生活費の送金及び生活に必要な財産の取得、物品の購入その他の日常生活関連取引
並びに定期的な収入の受領及び費用の支払に関する事項
4 医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契
約に関する事項
5 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申立てに関する事項
6 訴訟行為(民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項を含む。)に関する事項
7 以上の各事項に関連する一切の事項
代理権目録(任意後見契約)サンプルⅡ
1 不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び処分に関する事項
2 金融機関、郵便局、証券会社とのすべての取引に関する事項
3 保険契約(類似の共済契約等を含む)に関する事項
4 定期的な収入の受領、定期的な支出を要する費用の支払に関する事項
5 生活費の送金、生活に必要な財産の取得に関する事項及び物品の購入その他の日常関連
取引(契約の変更、解除を含む〉に関する事項、
6 医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契
約に関する事項
7 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申立て並びに福祉関係の措置(施設入
所措置を含む)の申請及び決定に対する異議申立てに関する事項
8 シルバー資金融資制度、長期生活支援資金制度等の福祉関係融資制度の利用に関する事
項
9 登記済権利証、印鑑、印鑑登録カード、住民基本台帳カード、預貯金通帳、各種キャッ
シュカード、有価証券・その預り証、年金関係書類、土地・建物賃貸借契約書等の重要な
契約書類その他重要書類の保管及び各事項の事務処理に必要な範囲内の使用に関する事項
10 居住用不動産の購入、賃貸借契約並びに住居の新築・増改築に関する請負契約に関す
る事項
11 登記及び供託の申請、税務申告、各種証明書の請求に関する事項
12 遺産分割の協議、遺留分減殺請求、相続放棄、限定承認に関する事項
13 配偶者、子の法定後見開始の審判の申立てに関する事項
14 新たな任意後見契約の締結に関する事項
15 以上の各事項に関する行政機関への申請、行政不服申立て、紛争の処理(弁護士に対す
る民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項の授権を含む訴訟行為の委任、公正証書の作成嘱
託を含む。)に関する事項
16 復代理人の選任、事務代行者の指定に関する事項
17 以上の各事項に関連する一切の事項
同意を要する特約目録サンプル
乙が以下の行為を行うには、個別に任意後見監督人の書面による同意を要する。
1 居住用不動産の購入及び処分
2 不動産その他重要な財産の処分
3 弁護士に対する民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項の授権を含む訴訟行為の委任
4 復代理人の選任